【メジャー競技“じゃないほう”座談会・後編/ビーチバレー×フットサル】倉坂正人(ビーチ)×藤井桜子(ビーチ)×田口元気(フットサル)「選手同士は、ライバル関係を超えて環境づくりに取り組まないといけない」(藤井)

SAL

【軍記ひろし】

日本国内でメジャースポーツと言われるバレーボールとサッカーがある一方で、主流にはなれない“じゃないほう”の競技。それがビーチバレーボールとフットサルだ。メジャースポーツと同じように国内リーグが開催され、世界大会があるようなトップ競技でありながらも、両者は陽の目を見る機会が少ない。

ただし、「じゃないほう」ではあっても、そこで戦う選手は、メジャースポーツの選手と同じように努力を重ね、アスリートとして競技に打ち込んでいる。彼らは彼らなりに考え、それぞれの競技の発展を願う。

ビーチバレーボールの倉坂正人と藤井桜子と、フットサルの田口元気。20代中盤から後半の年代の彼らはこの先、自分たちの競技を背負っていく存在。日々、どんなことを感じながらプレーして、この先、どんなことを考えてプレーしていくのか。3者の共通点や相違点、未来へのビジョンを、語り合った。

自分にどんな商品価値があるかを考えないといけない

田口 フットサルは、日本サッカー協会の傘下に日本フットサル連盟があって、そこでFリーグが組織されています。ビーチバレーはどういった組織体制なのでしょうか?

倉坂 そこは同じですね。日本バレーボール協会(JVA)があって、その傘下に日本ビーチバレーボール連盟があります。

──連盟としてはお金を生み出していくことが重要なのですが、組織としても、選手個人の活動としてもまだまだ課題があると感じています。田口選手は、不動産会社に勤めながらプレーされているんですよね。お金を生み出すということでは、どういった取り組みをされているのでしょうか?

田口 それはフットサル選手、個人としての部分ですよね?

──そうですね。

田口 これは僕の考えですが、今は物を買うときにも、めちゃくちゃ情報があふれている時代ですよね。そのなかで、購入の決め手になるのは何かなと。たとえば、100円の水と120円の水があったときに、20円の差ではありますけど、正直、どちらでも大きな違いはないですよね。僕はそこで、作り手の想いを知ったときに、そちらを買おうというアクションにつながります。コマーシャルとかもそうだと思いますが、「あの人が出ていたやつを買おう」とか。物を買うときにはストーリーがあると思うので、フットサルでもそこをどうやったら生み出せるかをチームとはいつも話をしています。でも正直、スポーツはすごくたくさんありますよね。バレーボールもバスケもサッカーも野球もラグビーも……。そのなかでフットサルを選んでもらえるのか。市場に商品がたくさんあるなかでどうしたら手に取ってもらえるのか。差別化……という言葉は僕は好きではなくて、「差別化」はそもそも違うものということなので。では、同じジャンルのものから選んでもらうにはどうするか。たとえばフウガドールすみだから一番近い場所には、バルドラール浦安というクラブがあるのですが、その2つから「なぜそっちを選ぶのか?」を考える。もちろん、「地元」とか「あの選手がいるから」とかいろんな理由が考えられますが、それは意味付けですよね。お金を生み出すという観点からすると、そういった作業が大事ではないかと思っています。自分にはどんな商品価値があるのか。

──田口選手は「本気でふざける」をテーマに活動されていますよね?

田口 そうですね。チームの発足経緯が、現在の監督の須賀雄大さんたちが学生時代にワンデー大会に出場するために作ったものでした。大学仲間とめちゃくちゃふざけながら、でも試合では真面目にプレーしていたんです。そういう源流を持つチームが、2009年に、全日本選手権でアマチュアながら日本一に上り詰めた。決勝でプロチームに勝って優勝したんです。そのときも、ピッチ外ではめちゃくちゃふざけているような感じだったんです。僕は当時、違うチームにいたのですが、「ふざけてるチームだな」って(笑)。そういうチームカラーが、今でも残っているのがフウガドールすみだなんです。

倉坂 どうふざけるんですか?

田口 たとえば、テレビドラマの『おっさんずラブ』ってすごく流行りましたよね。あれをパロディ化して、岡村康平という選手がいたので、「おかさんずラブ」って(笑)。選手をキャスティングして、ドラマと同じようなカット割りで映像を撮ったり、プロモーションをしましたね。あと『TT兄弟』を『FF兄弟』にしてやってみたりとか。

倉坂 試合でやるんですか?

田口 いえ、試合の告知ですね。動画などでSNSを使って発信します。「真面目に全力でふざける」んです。スポーツチームって、チーム内で一発ギャグとかふざけあうことがありますよね。それをチームとしてやってしまう。試合中でも、急に叫び出したりとか。これは本気でやるんです。そうやってチームの雰囲気を変えたり、流れを持ってきたりする。チームの組織づくりの一つではあるのですが、チームとして「ふざける」ことがいい方向に向かっていくんです。昔からふざけていた人たちが今は30歳後半になっていたりしますが、普通ではふざけられないような年齢でも、うちのチームではそれが当たり前だったりします(笑)。振り切ることで、それが文化になっていったら、下の世代にも伝えていけるなと。それがどれだけ集客につながっているかはまだ分析し切れていないですが、他とは違うことをしていこうと。ストーリーを作って、僕たちを応援してもらえる意味を自分たちで作り出そうということでやっています。
──そういうお話を伺うと、ビーチバレーはチームスポーツではないという点での難しさもある一方で、まだまだ足りていないなと感じます。

倉坂 日本人特有の恥ずかしがりな性格なのかもしれないですが、SNSはあまり投稿しないところがあります。試合告知もしていない現状がありますし、個人でふざけて投稿できる人もいないですね。僕らがそういった取り組みをできたら、何かを変えていけるかもしれないですね。

田口 そういう意味でSNSはめちゃくちゃオススメですね。僕らは「ふざける」というワードを使いましたが、何を届けたいかが重要かなと思っています。ふざけることで、楽しむことを届けたいなと。プレーを見てもらいたいので、ただふざけるだけではいけないなと。フットサルチームにも、行動理念があるべきだと思ったので、こういう指針のもとで活動していくというものを作ってもらってやっています。「全力でカッコつける」、「全力でふざける」。今シーズンであれば「みんなで作る」とか。試合をみんなで作っていく。これまで体育館にはなかった大型スクリーンを導入するために、クラウドファンディングをやったり。スポンサーを集めて、資金を出してもらって設置する方がスムーズかもしれないですけど、みなさんに協力してもらう方が一体感を生み出すことができるのかなと。自分がお金を出して設置したものがあれば、試合を見に来てくれる。みんなで作り出していこうというキーワードを新たに進めています。

藤井 ファンとの交流も多いですか?

田口 選手がクリニックを開いて、ファンとボールを蹴ったり、技を伝えたりする機会は、各選手が毎月、数回ずつやったりしていますね。僕はどちらかというと、ファンの方々と蹴る機会を作るというよりも、「プロデューサー」というか、SNSなどを通して何かを作り出す方にシフトしています。僕は僕にしかできないやり方でファンの方と交流を持っていこうと思っています。

倉坂 そこはチーム内で役割がある?

田口 選手のキャラクターもあるので、勝手に役割が出てくるなと。ファン感謝祭もやるので、そこではみなさんを招いてやりますし、交流するイベントはけっこうあります。幼稚園や小学校に訪問することで、一緒にボールを蹴ったり触れ合った子どもが試合に来てくれていますね。

【軍記ひろし】

──ビーチバレーの選手は、企業の社員であっても、会社にあまり行かないでスポンサードを受ける形態が多いと思います。でも田口選手は普通に働かれていますよね。素朴な疑問ですが、大変じゃないですか?

田口 そうですね……大変だと思ったことはないですね(笑)。午前中に練習をして、午後から仕事をして。夜はお客さんと会食をしたり。もちろん翌日も練習があるのでお酒は飲まないですが、関係づくりに必要な時間でもあるので。そういうことをしていますね。

──リーグ期間中も変わらずに?

田口 そうですね。

藤井 それはすごいですね。

田口 遠征中でも、パソコンを開けば仕事ができてしまうので。以前、新卒で勤めていた会社は、当時は夜の時間帯の練習だったので、普通に朝から出社して夕方まで働いていました。フットサル選手ということを考慮してもらっていなかったですし、新人として覚えることもたくさんありましたから、会社のトイレから試合当日に「すみません。今日は行けないです」って監督に電話したこともありました(笑)。

──今、社会には「セカンドキャリア」というテーマがあります。アスリートが競技を引退した後にどういうキャリアを選んでいくのか。「選手の次の人生」という意味での言葉ですね。でも田口選手は、それを同時に進めています。トップ選手であり社会人である「デュアルキャリア」という生き方ですね。ビーチバレーでは、現役を退いた後にどうしていくといった話題が出ることはありますか?

藤井 私は、教育関係の会社で、シーズン中はあまり業務はないのですが、アフタースクールの『ナナカラ』に月に何回か訪問しています。子どもたちが現役アスリートと一緒に体を動かせるという機会ですね。そういう活動で会社に貢献できたらと思っています。引退は、時期を含めてまだ考えていないですが、もし今、選手を辞めても、その会社で働かせていただく道もあるとは思います。ただ、自分で海外遠征の飛行機や宿泊先を手配したり、現地でのやり取りするような、アスリートとして自分で自分をマネージメントしていくことが、次の自分のキャリアにつながるのかなとも感じています。今だから経験させてもらえることをしようと。バレーボールでは、仕事はほとんどしないで練習をこなして、マネージメントすることもなかったりします。ビーチバレー特有の、個人としてやるということが、競技にも、自分の人生にも生かせると感じています。監督がいないわけなので、ゲームメイクも自分で考えないといけないですからね。

──田口選手は、アスリートのスキルはそのまま社会に生きると話していましたよね。

田口 2つの軸があるという認識ではなく、同じことをやればいいのかなと。結果の出し方が違うだけというか。藤井さんがおっしゃったように、今やっていることが次につながると思っています。「次」というか、今を積み重ねていくという感覚ですね。

──競技に専念するという選択肢はないですか?

田口 ないですね、はい。

──ビーチバレーでは、競技だけでは生活できない選手がアルバイトをしながら死ぬ気で打ち込んでいますが、そのステップアップとして、企業などの所属先が決まって、競技に専念できるという流れもあります。そういうイメージではないと。

田口 僕の場合はですが。周りにこのスタイルの選手が多いわけではありません。おっしゃる通り、皆さんプロを目指して来年の契約をつかみにいくわけですけど、僕の場合は、そこにとらわれてはいないというか。クビになってもいいなんて思ってはいないですし、仕事があるからそう思っているわけではなくて、今をやり切っているからこそ、どうなっても受け入れる。今やっている自分が自分。来年、もしかしたら契約更改できずに移籍したり引退したとしても、同じように新しいやり方を考えます。もし仮に、(競技だけに専念できる契約の)話が来ても、受けないと思います。

倉坂 競技も仕事もすることが、両方にいい影響がある。

田口 それは間違いなくありますね。だから単純にめっちゃ楽しいですよ。

藤井 すごくそういう雰囲気が出ていますよね(笑)。

田口 ビーチの選手は、引退するとその所属先で話をする感じですか?

倉坂 そのまま働けるのがいいケースで、あとは自分で他の仕事を探したり、コーチとしてやっていく方もいます。

田口 そういうことってけっこう考えていますか? あまり考えていない選手も多いなと感じているのと同時に、自分のこの考え方は、誰かに推奨してもしょうがないなと思っています。考えている人はすでに自分で考えていますし、考えていない人に、考えさせようとすることはあまりうまくいかないなと(苦笑)。

【軍記ひろし】

──では最後ですが、こうして異なる競技のトップ選手同士で話をしてみてどんな感想をお持ちですか?

倉坂 僕は久しぶりにチーム競技をされている方とお話しできたことが大きいですね。僕はビーチバレー選手であると同時に、それはすなわち経営者であるという考えを改めて持つべきだなと。理念を持つこともそうですが、短期・中期・長期と考えていく。パートナーはいますが、自分のなかで段階を踏んでやっていく必要がありますよね。いい勉強になりました。ありがとうございました。

藤井 田口さんとお話ししていて、応援してくださる地域の方々をすごく大切にされていることを感じました。ビーチバレーは所属も違うし、言ってしまえば敵同士です。でも、競技人口も少ないですし、選手はもっとみんなに応援してもらえるように、ライバル関係を超えて環境づくりに取り組んでいかないといけないですね。競技のなかでは「自分さえよければいい」という考えもあると思いますが、それだけではこのスポーツのファンを増やして盛り上げていくことはできないなということをすごく感じました。今年は、ライバルでも……。

倉坂 うちらは試合しないし、ライバルじゃないって(笑)。

藤井 (笑)。そうですし、男女の違いもありますけど、みんなで盛り上げられるようなアクションを起こしていけたらと思います。

田口 「じゃないほう」のスポーツを盛り上げていきたいと考えている気持ちは一緒なんだなということをすごく感じました。改めてフットサルも負けないで盛り上げたいと思いましたし、スポーツの横のつながりをどんどん広げていきましょう!

【企画】スマートスポーツエンターテイメント株式会社
【取材】吉田亜衣(ビーチバレースタイル)、本田好伸(SAL)
【写真】軍記ひろし、吉田亜衣
【協力】フウガドールすみだ、ビーチバレースタイル、SAL

倉坂正人(くらさか・まさと)

1990年2月7日生まれ、石川県出身。石川県立工業高→早稲田大。三菱オートリース所属。

【JVA BEACH】

藤井桜子(ふじい・さくらこ)

10月15日生まれ、東京都出身。都立駒場高→日本体育大。市進ホールディングス所属。

【JVA BEACH】

田口元気(たぐち・げんき)

1991年7月3日生まれ、茨城県出身。鹿島学園高校→神奈川大。フウガドールすみだ所属。

【軍記ひろし】

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著者プロフィール

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フットサルを見る・蹴る・着るという3つの視点から多角的に発信していくメディアです。見る人には、試合情報や技術・戦術などの競技の魅力、選手のキャラクターや物語を。蹴る人には、ボールを扱う喜びや仲間と蹴る爽快感を。着る人には、注目アイテムや、着こなしのアドバイスを。それぞれのニーズに合ったフットサル情報をお届けします。

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