走ることの本質的な楽しさ 雑誌『走るひと』──とまらない編集後記Vol.2

【(C)走るひと2】

 さまざまなジャンルで活躍する走るひとたちの、普段とは少し違ったスタイルや表情、そして内面から湧き上がる走る理由など、僕らを走りたくてしようがなくさせるものたちを紹介する雑誌『走るひと』。その第2号である『走るひと2』(2015年4月発売)の制作意図や取材時のエピソード、そして魅力的な出演者たちへの印象を、愛を込めて、編集長の上田唯人と、副編集長の菅原さくらが語る。

Photo & Text : Kyoka Sasanuma(『走るひと』編集部)

「ランニング」の枠組み

【(C)走るひと2】

さくら 今回は、Chim↑Pom(チンポム)のエリイさんの巻頭特集についてお話したいと思います。反響があったページのひとつですよね。

上田 創刊号にはなかった企画で、僕らにとってはひとつのチャレンジでした。もともとエリイちゃんはTwitterのプロフィールに、「本を読むのとのぼりぼうとおよぐのと走るのと料理が大得意です」って書いてて。走ることが得意って書いているひとってそういないから、すごく興味をもった。それで、現代美術家である彼女となら、なにか新しいことを表現できるんじゃないかって考えたのが、この企画ができたきっかけです。書店の方とかからもすごく好評いただいていて、ランニング雑誌なのにエリイちゃんが巻頭に登場して、「スコーンと抜けてる」みたいな話をもらって、すごくうれしい。
さくら このページ、ランニングウエアじゃないドレスアップした服で、しかも結構高いヒールの靴を履いて走っているので、いろんなひとにびっくりされますよね。

上田 これで走ってるっていう時点で、もうランニング雑誌じゃないんよね……『走るひと』って、ランニング雑誌じゃないからね。

さくら おぉ〜、言っちゃった。そうです、実はね。

上田 別に、既にある「ランニング」という枠組みのことだけを考えて作ってるわけじゃない。もちろん、そういうものを求めているひとにも喜んでもらえたらうれしいけど。例えば、これがもし体育の教科書だったら、「こんな服で走ってはダメ」ってなる。でもみんなヒール履いてても、急いでるときは走るもんね。ここで言ってることって、そういう「急いでるから走る」ってことも同じ“走ること”として、ひとまず切り捨てずに考えてみた。

さくら 世間に定着したランニングのイメージにとらわれずに、もっと広く“走ること”自体に目を向けようと。

純粋に「走るのが好き」

【(C)走るひと2】

上田 エリイちゃんって僕らが説明するまでもなく、日本を代表する現代アーティストだから、彼女じゃないと表現できない“走ること”がきっとあるやろって。エリイちゃん、別に定期的に走ってるとかじゃないのに、「走るの得意」って言い切るのよ。「ランナーズハイが好き」って。

 なんかこう……今はみんな、タイムとか距離とか、考えすぎてるんじゃないかって思う。もちろん、競技者として走っている方もいるし、タイムを気にすることが悪いことっていう意味ではないの。時間軸で自分の状態を確かめることもできたり、目標設定ができたりとか……それはすごく良いことやと思うし、やっぱりこの価値軸のなかで競技が生まれてきたっていうこともわかる。だからこそ、その良さにばっかりとらわれてしまっているのかなとも思うんです。

さくら そこだけ楽しんでいても、ランニングの良さが十分にありますからね。
上田 うん。それで、そんなふうにどうしてもタイムや距離ばかりに目がいって、本質的に楽しいところを忘れがちなんじゃないかっていうことを、エリイちゃんに気付かされたというか。彼女はマラソン大会にも出たことないし、タイムとかそんなこと頭の片隅にもないんだけど、「走ることが大得意」って言っている。僕らからすると、すごく幸せに見えるのよ。単純に「好き」とか「得意」とか言えるひとってめっちゃ強いなと。そんなふうに走れたら、どれだけ自由なんやろって。

さくら タイムや距離の先にある、新たな概念の感じがありますよね。“時間の物差し”について改めて考えるきっかけにもなったし、その表現の出口がひとつできたなって思います。

上田 そうね。だから、世の中で当たり前とされている、学校の体育で教えられているようなこととかを頭の中で一回取っ払うことができたら楽しいし、企画段階でもそういうことをたくさん話していました。

さくら ぜひ、そんなことも踏まえて再度見直してみてほしいページですね。撮影、めっちゃ刺激的でしたよね。深夜2時ごろから明け方まで走って。合間に、エリイさんが人生で一番走ったときのお話とかいろいろ聞いて、またそれがインスピレーションになって言葉が生まれて。

上田 スタッフも全員走って、気づけば朝日がのぼり始めていて、なんか、不思議なグルーヴが生まれてたよね(笑)。そのグルーヴ感が“ランナーズハイ”そのものやった。ああいう、ただ単にハイになれた瞬間を現場のみんなで共有できたっていうのは、きっと時間軸じゃないところの楽しさだったよね。だから、企画としてやったけど、結果的には僕らがランナーズハイになったことをそのまま伝えたっていう……ドキュメンタリーなんです。

【(C)走るひと2】

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著者プロフィール

雑誌『走るひと』/HASHIRUHITO

東京をはじめとする都市に広がるランニングシーンを、魅力的な走るひとの姿を通して紹介する雑誌メディア。いま、走るひととはどんなひとなのか。距離やタイム、ハウツーありきではなく、走るという行為をフラットに捉え、さまざまな走るひとの個性や内面を深掘りし、数年前とはひとも景色もスタイルも明らかに異なるシーンを捉えます。テーマは「僕らを走らせるひと」。僕らを走りたくてしようがなくさせるものたちを紹介していきます。年2回発行(予定)。

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