スポーツ・レガシー事業を考える
開催が目前に迫った東京マラソン2015大会(2015年2月22日(日)開催)から、東京マラソンチャリティ“つなぐ”の新たな寄付先事業として「スポーツ・レガシー事業」が加わった。
そこで今回、スポーツ・レガシー事業の内容に賛同し、また自らファンドレイザーとなり、東京マラソン2015大会へはチャリティランナーとして参加する朝日健太郎氏(ビーチバレー/北京五輪・ロンドン五輪日本代表)、白戸太朗氏(トライアスロン)、松村亜矢子氏(シンクロナイズドスイミング/北京五輪日本代表)、井上友綱氏(アメリカンフットボール)の各々が、スポーツ・レガシー事業をあらてめて考え、ビジョンを共有し、スポーツ・レガシー事業の内容やその想いを語り合うことを目的とした、「スポーツ・レガシー事業を考える座談会」が開催された。
スポーツ・レガシー事業『4つの柱』
東京マラソンチャリティ“つなぐ”のチーフ・ファンドレイザーでもある朝日氏は、3回目の東京マラソン挑戦。これまでも寄付先はスポーツ関係の事業を選んできたが、スポーツ・レガシー事業が掲げるテーマと「自分の想いが合致した」ことから今回、13ある寄付先事業の中からスポーツ・レガシー事業を選ぶに至ったという。
松村さんもシンクロナイズドスイミングを生涯スポーツにするための研究を大学院修士課程で進める中、「自分が求めてやっていくものはここだ」と、スポーツ・レガシー事業の内容に賛同し、東京マラソン初挑戦を決めた。
ただ、「スポーツ・レガシー」とひと言で言っても、まだ日本では新しい言葉で、ピンとこない人も多いだろう。そもそもレガシー(Legacy)とは“遺産”のこと。そして、スポーツ・レガシー事業が掲げるテーマには、以下の4つの大きな柱がある。
『スポーツの夢(強化育成)』
『スポーツの礎(環境整備)』
『スポーツの広がり(普及啓発)』
『スポーツの力(社会貢献)』
トップアスリートそれぞれのレガシー
この4つの軸をもとに朝日氏は、スポーツ経験は人材育成であるという想いから「第一線で活躍していた人ほど、スポーツしか知らないことへの不安が大きい。そういった不安を取り除くことができるような環境をレガシーとして確立していきたい」と語る。
同じく“セカンドキャリア”という視点から、「自分たちの経験を後世に伝えることで、新しい人生像を作れるのではないか」と話すのは井上氏。自身の米国NFL挑戦を振り返り、「米国のスポーツビジネス、スポーツの現場は3年から5年先を行っていると思います。日本からの留学生が減っていると言われていますが、学ぶ人をどんどん米国に出さないと」と警鐘を鳴らす。そのうえで、「海外で得た経験を日本にどんどん持ち帰ること」と、日本のスポーツビジネス・スポーツの現場をより成熟させるためには、海外で培った経験・知識の還元が必要であると力を込めた。
また、白戸氏は、ある地域でトライアスロン大会が開催されたことをきっかけに街がみるみる活性化されていったという例を挙げ、「スポーツをする人はエネルギーに満ち溢れているから、周りが感化されていくんでしょうね。スポーツイベントがどんどんできれば、日本はまだまだ変われます」と、スポーツの持つ力に期待。一方、松村さんは五輪出場経験から、「オリンピック選手が関わったものをいかに一般化して普及し、身近に感じられることができるか」と、2020年東京五輪後のハード面でのレガシーに言及していた。
このように、アスリートにとっても「スポーツ・レガシー」に対する想いはさまざまだが、さらにスポーツ・レガシー事業の4つのテーマに具体的に即して考えた場合、『環境整備』の面で、朝日氏は「学校というインフラがあるのにそれがうまく活用されていない」と指摘。海外では日本のように体育館もありグラウンドもあって、スポーツ用具もそろっている学校というのは珍しいようで、朝日氏の意見には他3名のアスリートも大いに賛同していた。
さらに、学校を卒業すると途端にスポーツに触れる機会が減ってしまうという日本社会の現状を踏まえつつ、「体を動かす部分と、場所・道具の問題をいかにつなげるか、スポーツ利用にいかに転換できるかがこれからの課題」(朝日氏)、「30代後半になって体の変化を感じてからようやく運動する人が多い。学校教育などを通して、スポーツする時間って必要なんだという意識を作らないと」(白戸氏)と訴えた。
スポーツと次世代教育
また、『スポーツの夢(強化育成)』、『スポーツの広がり(普及啓発)』にもつながるテーマである『スポーツと次世代教育』に話題が移ると、「スポーツ経験を通して、何が良かったか、何が成長したか、それらを次世代に発信していければ」と朝日氏。具体的に朝日氏が得たものは“諦めない心”だとし、井上氏も「すぐに何でも達成できるわけではない。何度も再チャレンジして、どこかで達成したときの喜びというのは、スポーツだけじゃなくて日常生活でも同じ。そういったことを、スポーツを通して学べる」と同調した。
さらに、松村さんも「オリンピック選手は順風満帆に人生を歩んできたと思われがちですが、そういったレベルの人ほど良いときと悪いときの波が大きい。だから“やりきる力”というものが大切」と述べ、白戸氏も「目標を立てて、努力して、達成する。そういったことが分かるとスポーツはさらに面白くなる」と話している。
これらの意見を総合し、スポーツ経験で得られる“諦めない”“挑戦する”“やりきる”という想い・力が子どもたちの成長につながることから、白戸氏は「教育の場としてスポーツイベントは成り立っている」とする一方で、トップアスリートたちも次世代の見本となるべく「なぜここで頑張るのか、ちゃんとやっていかないといけない」と朝日氏は身を引き締めていた。
東京マラソンへ向けて
今年から、スポーツ・レガシー事業がチャリティ“つなぐ”の寄付先に新しく加わったことで、レガシーという観点から東京マラソンを通じて世の中に何が残せるか、ということも重要になってくる。
このことについて、朝日氏は「トップアスリートを間近で見ることができる。これが大きい」と語る。「トップ選手のとんでもない人間力をぜひ感じてほしい」と続けると、白戸氏も「トップ選手のエネルギーのすごさはテレビでは伝わりきらない。一瞬でいいから目の前で見てほしいですね」とコメント。マラソンだけでなく、バレーボールでもアメリカンフットボールでもなんでも、トップアスリートの力を間近で体感するというのは、大人も子どもも大きな刺激になるという。
また、3万6千人のランナーがいる影で、それを支える1万人規模のボランティアがいるということも忘れてはいけない。「1万人のボランティアがいっしょになって行動できる。この資源を今後、どう生かしていくか」と朝日氏が語ると、「走らない人は関係ないんじゃなくて、ボランティアでもいいし、応援でもいい。スポーツには色んな参加のカタチがあるんだということを示してくれた大会が東京マラソン。これを東京五輪につなげていきたい」と白戸氏。松村さんも「スポーツを通して人をもてなしたり、人のためになることを体感してほしい」と語っており、「これこそが東京マラソンの意義なのかもしれない」と意見はまとまった。
最後に東京マラソンへ向けて、4名全員が「笑顔で完走」と意気込みを語り、その中でそれぞれ「5時間」(朝日氏)「3時間」(白戸氏)「6時間」(松村さん)「5時間を切りたい」(井上氏)と、目標タイムも発表。そして、朝日氏は「チャリティが私のライフワークになってきました。皆さんからいただいた寄付が社会貢献になるよう、自分はその真ん中にいる接続詞となるように頑張りたいし、長く継続できるスポーツ文化の第一歩になるよう、今後もスポーツの良さを広めていきたい」と、自身が目指す「スポーツ・レガシー」像に触れ、座談会は幕を閉じた。
(C)東京マラソン財団
■スポーツ・レガシー事業についてはこちら
http://www.tokyo42195.org/2015/charity/recipient-programs/sports_legacy.html
- 著者名
- スポーツナビDo
- 著者紹介文
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習慣的にスポーツをしている人やスポーツを始めようと思っている20代後半から40代前半のビジネスパーソンをメインターゲットに、スポーツを“気軽に、楽しく、続ける”ためのきっかけづくりとなる、魅力的なコン...
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